糖尿病

糖尿病は一言でいうと、血液の中に含まれる糖の濃度が高い状態が長く続く病気です。

血糖値について
 私たちが食事を食べると様々な消化酵素が働き小腸より栄養素が吸収されます。吸収された栄養素は門脈という血管を通り肝臓に運ばれ、肝臓で蓄積されたり、肝臓から血液中に流れ体中に運ばれます。その栄養素の中の1つが糖分です。
 糖は体を動かすエネルギーの補給を行う重要な栄養素で、特に筋肉で消費されます。血液中の糖はホルモンや神経により調節され一定の濃度に保たれています。こうした血糖調節に関与するホルモンとしては、インスリン、グルカゴン、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、副腎皮質ホルモン、カテコラミンがあり、この中で唯一血糖値を下げるホルモンがインシュリンになります。インシュリンは膵臓のβ細胞より作られ血液中に放出されます。
 いかにインシュリンが血糖値を下げるかというと血液中の糖を細胞の中に取り込む必要があります。しかし、糖は細胞膜を通過できないために細胞内に取り込むための機能が必要となります。そのために細胞膜に糖輸送担体(GLUT4)が存在し、GLUT4により筋肉(骨格筋、心筋)、脂肪組織内に取り込まれます。下の図のようにインスリンが受容体に結合することでGLUT4が働きだし糖の細胞内への取り込みを増加させます。なお、運動によってもインスリンと無関係に、GLUT4は筋肉細胞内へのグルコース取り込みを増加させます。




糖尿病の分類

1)1型糖尿病
 膵臓のβ細胞が何らかの原因で破壊され膵臓からインスリンがでなくなる糖尿病です。原因としては ①自己免疫性、②ウイルス感染、③特発性(原因不明)などがあります。治療は外からインスリンを補充しなければならず毎日のインスリン注射が絶対に必要になります。比較的若年に発症することが多い病型です。

2)2型糖尿病
 ほとんどの方がこの型に当てはまります。遺伝的要素もある場合もあり親や兄弟に糖尿病にかかっている人がいることがあります。また、過食、肥満、運動不足、ストレス、加齢などの原因やこれらが合わさることで、インスリン分泌が低下したり、インスリンの働きが低下して2型糖尿病を発症することもあります。

3)その他の特定の機序・疾患によるもの
 遺伝子の異常により発症するまれな糖尿病です。

4)続発性糖尿病
 他の疾患によって引き起こされる糖尿病で、膵臓の術後や病気、肝硬変などの膵臓以外の病気、さらにステロイドなどの薬剤で発症する糖尿病です。

4)妊娠糖尿病
 妊娠を契機に発症する糖尿病で出産後には改善することが多いです。妊娠前から糖尿病と診断されている患者さんが妊娠した状態(糖尿合併妊娠)とは異なります。妊娠糖尿病は先天異常の可能性があり早期より血糖値のコントロールが必要で、早産も多く、羊水過多、妊娠高血圧症候群の頻度も高いハイリスク妊娠のひとつである。さらに妊娠糖尿病では巨大児になりやすいため、難産になりやすいと言われています。

診断

糖尿病の新しい診断基準(2010年7月1日より)



 この表で糖尿病あるいは糖尿病を疑われた方は医療機関への受診を勧めます。


合併症

     原因  初期症状
急性合併症  ケトアシドーシス   血液中のインシュリンが不足し、ブドウ糖の利用ができずに脂肪が分解されケトンが作られます。放置すると昏睡状態となり死亡することもあります。  のどの渇き、倦怠感、体重減少
 非ケトン性高浸透圧昏睡   極端に血糖値が上昇すると浸透圧により尿が増え脱水をきたします。早急な水分補給とととにインシュリンの投与が必要で生命の危険を伴います。  のどの渇き
 低血糖   食事量が少なかったり糖尿病薬やインシュリンの注射とのバランスが悪くなると血糖値が極端に低くなります。放置すると意識を失い生命の危険を伴う場合もあります。 冷や汗、動悸、ふるえ 
    
慢性合併症       糖尿病性網膜症   単純網膜症  網膜の毛細血管がつまったり出血(点状出血)や血管瘤、血管よりしみでたタンパク質などによりできる白斑(硬性白斑)が見られます。   ほとんどなし
前増殖網膜症  単純性網膜症が進行すると硬性白斑が増え、血管瘤が増えてきます。  ほとんどなし
増殖網膜症 前増殖網膜症をさらに放置すると増殖網膜症へ移行します。血液の流れが悪くなり新生血管ができます。この新生血管は破れややすく出血を繰り返し、増殖膜という膜を網膜上に形成します。この増殖膜が網膜を剥離させ網膜剥離をきたしたり、出血により硝子体出血をきたし視力低下や失明に及びます。  視力低下・失明
糖尿病性神経障害  末梢神経障害  糖尿病による血管の障害により細い神経から障害を受けやすく、足先や手先、足の裏などの感覚に異常をきたしはじめ徐々に太い神経を侵していきます。 多くは左右対称に起きていきますが、時に片方の神経を侵す場合もあります。その原因は血管閉塞によるもので顔面神経麻痺、聴神経麻痺などをきたすこともあります。  異常感覚(しびれ、ジンジンする感じ、冷感)、自発痛、神経痛、感覚麻痺、
自律神経障害  発汗異常(味覚性発汗、無汗)、起立性低血圧、胃無力症、便通異常(便秘、下痢)、胆のう無力症、膀胱障害、勃起障害、無自覚性低血糖など
 糖尿病性腎症    腎臓にある糸球体で体の老廃物を体外へ排泄します。この糸球体にはたくさんの毛細血管が流れこんでおり、糖尿病により毛細血管が障害を受け糸球体での濾過ができなくなります。進行すると腎不全へ移行し人工透析の導入が必要となります。 むくみ 
 脳梗塞・心筋梗塞    脳や心臓を栄養している血管が糖尿病で障害され梗塞をおこします。 手足のまひ・胸痛・冷や汗など 


治療
1)食事療法
 医師や栄養士の指示に従いバランスよく接種してください。
標準的なエネルギー摂取量は以下のように計算します。。

<エネルギー摂取量=標準体重×身体活動量>

 エネルギー摂取量(kcal)=標準体重(kg)×30(kcal/kg)(軽労働または中労働の方)
 エネルギー摂取量(kcal)=標準体重(kg)×25(kcal/kg)(肥満の方)

 標準体重(kg)=身長(m2)×22
(標準体重)×(生活活動強度)=(適切な1日摂取カロリー)

 
 生活活動強度  職業など  生活活動量
軽い   高齢者
専業主婦
管理職
通勤距離の短い事務職
25Kcal/Kg 
 中程度 育児中の主婦
外交員
長距離の事務職
製造業
運搬業 
25~30Kcal/kg
 やや重い 農作業
漁業
建築業
運搬業 
30~35Kcal/kg 
 重い スポーツ選手
建築などの現場作業
農業・漁業 
35~45Kcal/kg

 たとえば160cmの専業主婦の方のエネルギー接種量は

標準体重=160×160×2=56.32Kg
   エネルギー摂取量=56.32×25=1408Kcal です。

 なお、肥満とはBMI(body mass index)
   =体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)が25以上の状態のことをいいます。


2)運動療法
 歩行運動では1回15~30分間、1日2回(7,000歩/日以上程度)が適当とされています。  
 決して無理はせず、
まずは自分のできるところからゆっくりはじめてください。
 運動の種類  1時間あたりの消費カロリー(Kcal)
 男 女 
 60Kg 70Kg  50Kg  60Kg 
 ウオーキング(ゆっくり)  90 105  70  90 
 ウオーキング(普通・通勤など)  130 150  100 120
 ウオーキング(早め)  210 250  170  210 
 ジョギング(100m/分)  510 600  420  500 
 ランニング(200m/分)  720 840  590 700 


3)薬物療法
 薬物療法には 経口血糖降下剤を使用する場合と、インスリンを使用する場合があります。

①経口糖尿病薬
分類  商品名  効果 
   インスリン分泌刺激剤
 スルフォニル尿素剤
(SU剤)
 オイグルコン
グリミクロン
 膵臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を増やす 
 膵外作用を併せ持つ
SU剤
 アマリール  膵β細胞からのインスリン分泌を刺激するほか、末梢での糖取込、肝糖放出抑制などの膵外作用を併せ持つ 
 速効型インスリン
分泌促進剤
 スターシス
ファスティック
 膵臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を増やす 
   糖質吸収遅延剤
 αグルコシダーゼ
阻害剤
(α-GI)
 ベイスン
グルコバイ
セイブル
 消化酵素の働きを抑え、炭水化物の吸収を遅らせ食後血糖の上昇を抑制する 
   インスリン感受性改善剤
 ビグアナイド剤
(BG剤)
 メルビン 肝臓での糖新生抑制、末梢での糖利用促進、消化管からの糖吸収抑制等の作用
 インスリン感受性改善剤
(チアゾリジン系)
 アクトス 末梢でのインスリンの効きをよくすることで血糖を下げる  
   インクレチン関連薬
 DPP-4阻害薬  ジャヌビア 
グラクティブ
インクレチンは、消化管内の糖濃度に依存してインスリン分泌を促し、血糖を低下させる役割を担う消化管ホルモン。DPP-4阻害薬は、このインクレチンの分解酵素であるジペプチジルペプチターゼ-4(DPP-4)を阻害し、インクレチンの作用を促進させる。 
 GLP-1受容体作動薬  ビクトーザ  GLP-1受容体作動薬はDPP-4に分解されにくくしたGLP-1アナログ(生理的GLP-1に似た構造のもの)を直接皮下に注射してすい臓に作用させる 


②インシュリン製剤
   発現時間 持続時間 
 超速効型インスリン製剤  ヒューマログ  数分以内  3~5時間
 速効型インスリン製剤  ヒューマカートR
ペンフィルR
 30分ぐらい   6~8時間
 中間型インスリン製剤  ヒューマカートN
ペンフィルN
 1時間半  18~24時間
 混合型インスリン製剤  ヒューマカー3/7
ペンフィル30R
 30分ぐらい  18~24時間
 持続型インスリン製剤  ノボリンU
レンテ
 4時間  24~28時間
 持効型インスリン製剤  ランタス
レベミル
 1時間半  約24時間

 これらの製剤を単独あるいは組み合わせて使います。


















いのうえ内科
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