肝炎〜肝硬変

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肝炎(肝障害)とは?
 肝炎とは、なんらかの原因で肝臓に炎症が起こった状態です。軽症のものから重症のも、急性のものから慢性のものまであります。以下に主な原因をあげています。

 ウイルス肝炎  肝炎ウイルスが体に入り込むことで発症します。日本人では主にA型、B型、C型の3種類が多いです。
 薬剤性肝障害  服用した薬剤が原因で起こす肝炎です。中毒性肝障害とアレルギー性肝障害の2種類あります。薬そのものの毒性が肝臓を傷つけるものを中毒性肝障害、薬によってアレルギー反応が引き起こされ肝臓を攻撃するものをアレルギー性肝障害といいます。
 アルコール性肝障害 お酒を飲みつづけていると肝障害をきたします。急激な変化をおこしたり肝硬変へ移行することもあります。
 自己免疫性肝障害 免疫機構の異常をきたし、肝臓に障害を引き起こす病気です。


急性肝炎と慢性肝炎
 急性肝炎:ウイルスや薬剤が体内に入って発症します。通常、ウイルス性肝炎では感染してから数週間から数ヵ月後、薬剤性では薬を内服あるいは点滴投与されてから数週間後に発症します。
 症状:全身倦怠感、食欲不振、黄疸など
 治療:治療の基本は安静です。肝臓の数値によっては入院し点滴を行います。
 経過:ほとんどの急性肝炎は数週間から数か月でおさまります。しかし、ごくまれに劇症肝炎へ移行する場合があります。

 
慢性肝炎:体内にはいったウイルスやアルコールなどで肝臓の細胞が破壊され、修復することを繰り返し6ヶ月以上にわたって続く状態をいいます。慢性肝炎の一部は肝硬変へ進行していきます。
 症状:人によって違いますがほとんどの人は症状はありません。
     全身倦怠感や吐き気、食欲不振などの症状がみられることもあります。
 治療:血液検査の数値などにより異なりますが、無治療で経過を見る場合もあります。

 
劇症肝炎:急性肝炎の中で約1%の方が劇症肝炎へ移行すると言われています。
、劇症肝炎の場合は急性肝炎の症状がひどくなり肝性脳症という意識障害が出るのが特徴です。劇症肝炎は発症後に他の臓器(脳・肺・心臓・腎臓など)にも障害をきたし多臓器不全を合併することが多く死亡率も高く発症時には70〜80%の人が死亡するとも言われています。
 

肝硬変
 ウイルスやアルコールなどによって肝細胞が障害(壊れるために肝臓の細胞に含まれるGOTやGPTなどの肝酵素が血液中に放出されます)を受けた後、再生するということを繰り返している状態を慢性肝炎や慢性肝障害といます。この壊死と再生が繰り返されると繊維の増生が強くおこります。肝細胞は繊維に囲まれながら再生する為、再生結節という肝細胞のかたまりが作られます。繊維化がどんどん起きていくと肝臓はさらに繊維に置き換わり正常な肝細胞が減っていき、固い肝硬変となっていきます。わかりやすく言うと手にできる’タコ’と同じで同じところをケガ(障害)を受け治り(再生)を繰り返すと固いタコになるでしょ?タコの固くなったところは正常の皮膚ではなく針で刺しても痛くないでしょ?すなわち正常な皮膚組織が繊維に置き換わっているからです。同じことが肝臓で起きたのが肝硬変です。
 



ウイルス肝炎

   遺伝子  感染
経路
 分類
 A型肝炎  RNA  経口  ピコルナウイルス科のヘパトウイルス属
 B型肝炎  DNA  血液  ヘパドナウイルス科
 C型肝炎  RNA  血液  フラビウイルス科のヘパキウイルス属
 D型肝炎  RNA  血液  HBVをヘルパーウイルスとする衛星ウイルス
 E型肝炎  RNA  経口  以前は、カリシウイルス科

ここではA型〜C型肝炎について記載します。

A型肝炎

A型肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV:hepatitis A virus )によって起こされる急性のウイルス性肝炎です。A型肝炎ウイルスは感染している人の便の中に出て、この便中に出てきたA型肝炎ウイルスが口から入ることで他の人が感染します。

 潜伏期:通常2週間〜4週間
 症 状:食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛、気分不快、発熱、頭痛などから出現しこの黄疸に先立つ前触れ症状の期間は、平均的には5-7日ですが1日から2週間以上にわたることもあります。


診 断:A型肝炎の診断には血中のIgM-HAV抗体を確認する。IgMーHA抗体は発症から約1カ月後にピークに達し、3〜6カ月後には陰性となる。重症例ほどIgM抗体価は高く、発症6カ月以降にも検出される例がある。また、治癒が遷延化する例では IgMーHA抗体抗体の持続期間も長いとも言われています。













治療・予防
 原則として急性期には入院し、安静臥床とする。入院中は血液検査などで重症化、劇症化、肝外症状の有無を観察して、症状に応じた治療法がとられる


B型肝炎
HBV感染:輸血、不適切な観血的医療行為などによる経皮的感染と、性交渉、分娩時の経粘膜感染によるものであると考えられています。

 HBVの持続感染は出生時または乳幼児期の感染がほとんどで、成人での初感染では持続感染化することはまれです。持続感染 が成立した場合でも、ほとんどは肝機能正常なキャリアとして経過され、その後免疫能が発達するに従い、顕性または不顕性の肝炎を発症すると言われています。そのうち85〜90%はセロコンバージョン(seroconversion)を起こし、最終的に肝機能正常の無症候性キャリアへ移行し、残り10〜15%が慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌)へ移行し肝機能異常を持続します。
 一過性感染の場合、70〜80%は不顕性感染で終わるものの、残りの20〜30%のケースでは急性肝炎を発症します。このうち約2%が劇症 肝炎を発症し、この場合の致死率は約70%とされています。
# セロコンバージョン(seroconversion)とは、抗原が陰性となり抗体が陽性となること。

診断
 急性B型肝炎:HBVの感染状態ではHBs 抗原が持続的に産生されており、HBs抗原が陽性であればB型肝炎と診断できます。
※HBs抗原の抗原決定領域に変異があるために、HBs抗原が検出されないことがあります。そのためにHBs抗原陰性でもIgM-HBc抗体が高力価であれ ばHBVキャリアを疑い、さらにHBV DNAの検出などを行います。

B型肝炎のウイルスマーカーとその状態
名称  略語  陽性の場合
 HBs抗原  HBs-Ag  HBVの外被にある抗原  現在感染している
 HBs抗体  HBs-Ab  HBs抗原に対する抗体  過去に感染し現在は治癒
 HBc抗体  HBc-Ab  B型肝炎ウイルスの核抗原に対する抗体    キャリアからの発症で高力価となり,初感染では低力価
 IgM-HBc抗体   IgM-HBcAb  感染後に最も早期に出現し、感染有無の指標
 IgG-HBc抗体   IgG-HBcAb  キャリアの場合は高力価
 HBe抗原  HBe-Ag  HBV粒子の核部分にある抗原  ウィルスが活発に増殖活動をしていることを意味し、感染力の強さも示します
 HBe抗体  HBe-Ab  HBe抗原に対する抗体  HBVの増殖減衰を意味し,感染力は弱い
 HBV-DNA    HBV遺伝子  増殖性や量を調べます


臨床症状

 急性B型肝炎は比較的緩徐に発病し、微熱程度の発熱、食欲不振、全身倦怠感、悪心・嘔吐、右季肋部痛、上腹部膨満感などの症状がみられ、成人例で30〜50%、小児例では10%以下で黄疸を認めます。重症例を除いて、これらの症状は1カ月程度で回復します。
 一般に回復後にはHBVは生体から排除され、キャリア化することはないと言われていますが、免疫能の不十分な乳幼児、宿主の免疫能が低下した病態、免疫抑制剤の投与を受けている場合などの感染においては、キャリア化へ移行する例が存在する場合もあります。

B型急性肝炎の経過表


B型肝炎持続感染の経過表


治療・予防
 

@急性B型肝炎:急性肝炎は一般に抗ウイルス療法は必要ありません。食欲低下などの症状があれば水分、栄養補給のために点滴などをおこないますが無治療で自然にHBVが排除されるのを待ちます。

A慢性B型肝炎:慢性B型肝炎患者の人に持続感染しているHBVは基本的に完全排除することは出来ません。慢性C型肝炎のHCVに対するIFN療法では何割かの人にウイルスの完全排除が期待できますが、HBVに対してはIFNを用いても、後述の核酸アナログ製剤を用いてもウイルスの完全排除は期待できません。これがHBVに対する治療とHCVに対する治療の根本的な違いです。これをふまえてB型慢性肝炎の治療をしなければなりません。

 HBVに対する有効な抗ウイルス薬は、IFN(注射薬)と核酸アナログ製剤(内服薬)の2剤に大きく分けられます。大まかには、IFNは一般に年齢が35才程度までの若年者で、肝炎の程度の軽い(肝硬変になっていない)人、核酸アナログ製剤は 35才以上の非若年者、35才以下であっても肝炎の進行した人に対して投与を行います。


C型肝炎
HCVの感染経路としては、感染血液の輸血、経静脈的薬物乱用、入れ墨、針治療、不適切な観血的医療行為などが考えられるが、個々の事例で感染経路を明確に証明することは困難に近い。我が国のC型肝炎患者のうち、輸血歴を有するものは3〜5割程度であるが、現行のスクリーニングシステム実施下では、輸血その他の血液製剤による新たなC型肝炎の発生は限りなくゼロに近づいている。
 HCV感染に伴って急性肝炎を発症した後、30〜40%ではウイルスが検出されなくなり、肝機能が正常化するが、残りの60〜70%はHCVキャリアになり、多くの場合、急性肝炎からそのまま慢性肝炎へ移行する。慢性肝炎から自然寛解する確率は0.2%と非常に稀で、10〜16%の症例は初感染から平均20年の経過で肝硬変に移行する。肝硬変の症例は、年率5%以上と高率に肝細胞癌を発症する。40歳のHCVキャリアの人々を70歳まで適切な治療を行わずに放置した場合、20〜25%が肝細胞癌に進展すると予測される。肝癌死亡総数は年間3万人を越え、いまだに増加傾向にあるが、その約8割がC型肝炎を伴っている。

病原診断
 C型肝炎の診断には血清抗体の検出と核酸・抗原の検出の2種類がある。一般的には、初めにHCV抗体検査が行われる。以前は非構造領域のNS4領域(C100-3)を抗原とする抗体アッセイ系(第一世代)が用いられていたが、後にC100-3抗原、コア抗原、NS3領域の抗原を組み合わせて検出感度を上げた第二世代、さらにNS5領域の抗原も含めた第三世代の抗体アッセイ系が開発され、利用されている。抗体検出方法としては凝集法(PHA、PA法)、酵素抗体法 (EIA法)、化学発光酵素抗体法(CLEIA法)などが用いられている。
 これらの抗体検査で陽性となった場合、(1)HCVに感染しているキャリア状態、(2)過去に感 染し、現在ウイルスは排除された状態、の2つの可能性が考えられる。このようなHCVキャリア と感染既往者とを適切に区別するため、HCV抗体価を測定することと、HCV-RNAの検出検査 を組み合わせて判断する方法が一般的に行われている。また、急性C型肝炎においてもHCV 抗体の陽性化には感染後通常1〜3カ月を要する(ウインドウ期)ため、この時期の確定診断には HCV-RNA定性検査が行われる。急性期にHCV抗体が検出されるのは50%以下であり、発症後3カ月目に90%、6カ月目にはほぼ100%陽性となる。HCV-RNA定性検査法としては、reverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)を利用したアンプリコアHCV-RNA定性法がある。本法は102 コピー/ml程度の感度を有する。また、ウイルスの増殖状態や治療の効果判定、 経過観察などのためにHCV-RNAの定量を行う。方法としては、RNAの内部標準を使用したリアルタイムRT-PCR法、アンプリコアモニター法や分枝鎖標識DNAプローブを用いて定量する分 枝鎖DNAプローブ(bDNA)法などが開発実用化されている。感度はリアルタイムRT-PCR法、ア ンプリコアモニター法、分枝鎖標識DNAプローブ法の順に低くなる。また、HCVコア抗原を検 査する方法もあり、感度は分枝鎖標識DNAプローブ法と同等である。これはHCV粒子の構成 蛋白を直接測定する方法である。









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